もめんタルデイサービス「湿布がまっすぐ貼れません」

ナースを怖がるナースによる、看護職と介護職に向けた情報発信(と雑記)

【モヤモヤ】介護現場で酸素はどう扱ったらいいの?

酸素を吸っている人が利用者さんにいるとドキドキするのではないでしょうか。


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自分は偶然にも新卒で呼吸器内科に配属されたので、そこまで苦手意識はなく過ごせています。

しかし自分のミス一つで他人の息の根を(文字通り)止めてしまう医療機器を扱うなんて、慣れない人からすればストレスでしかないと思います。

 

なら、取り扱うときのポイントを押さえておけば少しはそのストレスもマシになるのではないかとこの記事を書いてみました。

 

「苦手意識はない」と書きましたが、私も配属ホヤホヤのときはおっかなびっくり酸素の機器を操作していたように思います。

呼吸器内科の経験がなければ今のデイサービス勤務もストレスフルだったに違いないです。

いやー、運がよかった。

 

酸素を吸う目的

そもそもなんで酸素を吸う必要があるのか。

その理由を知っていることで、判らないことへのストレスは減ると思います。

 

酸素を吸う理由その1. 息が苦しいから

肺が固くなったり、体の中にうまいこと酸素が届かないと自分の呼吸だけでは息が苦しくなります。

これは、体が要求している酸素の量に対して、供給が追いついてないのが理由です。

足りない酸素を医療機器で送ってあげるイメージが近いのではないでしょうか。

 

酸素のチューブを外してしばらくすると息苦しくなるのがこのパターンです。

一方で、酸素チューブをつけなくても全然苦しくならない人もいます。

 

酸素を吸う理由その2. 体に無理をさせないため

苦しくないのになんで酸素吸っているのか、というとそれは体に無理をさせないためです。

 

酸素チューブをつけなくてもしんどくない、なんともないと本人は思っていても、体は結構無理をしているときがあるのです。

 

酸素と呼吸に強くなるおすすめ書籍

この状態を一般の仕事をしている人にわかりやすく説明している本がこちら。

 

 

呼吸器内科ではたらいているときには、この本の内容にとても助けられました。

呼吸のキホンと帯にあるとおり、呼吸器症状の見かたや薬の知識など知っておくと実地で役に立つことが満載です。

医療以外の現場でも役に立ちます。

 

本題に戻しましょう。

本人は自覚がないが、体は無理をしている。

これは自分が納期のキツイ案件を休日返上で片付けたのに、上司が気づいていない状況です。

それだけに留まらず「案外いけるね?次から倍の量頼んでいい?」と無茶ぶりしてくるとしたら、どうですか。

 

おい上司、あんたのマネジメントどうなってんの、と言いたい状態ですが、体が無理をして酸素の量を補っているのはまさにこの無茶ぶり上司の仕事を休日返上で作業していることと同じなのです。

 

無理をして頑張り続ける部下に休み=酸素をあげないと、必ず倒れる日が来てしまう。

そのことに上司=本人、を理解していることも重要だと思います。

 

酸素を出す機器

酸素発生装置とかいいます。

なんとなくSFっぽい。

据置き型

家の中にドンと酸素発生装置を置いて、そこから酸素を吸うタイプ。

据置き型メリット

酸素の残量を気にせず使えるのがメリット。

存在感は高さ50cmくらいの空気清浄機で、人によってはそこまで邪魔にはならないと思います。

プラズ○クラスターくらいの存在感。

 

据置き型デメリット

酸素を吸っている限りはどこまでもチューブがついてくるので、10mはあるチューブをうまいこと捌きながら動かないとすぐもつれるのが難点。

 

テレビ番組でカメラのケーブルを捌いてるADさんいるけど、まさにあんな感じ。

 

酸素ボンベ型

こちらは主に外出で使う用。

酸素ボンベ型メリット

小さめのキャリーバッグに小型ボンベを収納して運ぶ型や、リュックサック型があります。

ボンベのサイズはメーカーによって様々ですが、消化器くらいのサイズ感です。

持ち運べるのが最大のメリット。

 

酸素ボンベ型デメリット

ボンベ全体で出せる酸素の量は決まっているので、たくさんの酸素を常に吸っている場合はすぐにボンベが空になってしまうのがデメリット。

一日がかりの外出の場合は予備のボンベを持っていくと安心。

 

介護のとき注目するポイント

ポイント1. 苦しそうではないか

酸素を吸っていても、体に必要な量に達していなければ息苦しくなります。

そのような症状が出現したときの対処法をあらかじめ知っていると安心して援助できます。

  •  息切れ、呼吸が荒くないか

 息苦しさの自覚症状としてわかりやすいものの一つ。

  •  ハアハアしている
  •  肩を上下させている
  •  首の筋が目立っている

というのもの特徴です。

 

ポイント2. 体に症状がでていないか

 息苦しさ以外にも酸素が足りていないときに出る症状があります。

  •  唇や指先が青白い
  •  いつもより落ち着きがない
  •  頭が痛い、ぼーっとする

などが当てはまります。

 

これらは「低酸素血症」という状態のときにみられる症状です。

ほかにも、指先が太鼓のバチのように太くなる「バチ状指」というものも低酸素血症の影響で現れることがあります。

長年酸素が足りない状態が続くことで起きる体の変化で、すぐに何かをしなければというものではありません。

ただ、その人の体がどんな状態かを知っておくのは、普段の介助にしろ緊急時にしろひとつでも情報が多いほうがいいので、その点では知識があると心強いと思う。

 

 

ポイントその3. そもそも酸素は出てきているのか

見た目ではばっちり酸素を吸っていると見せかけて、実は吸っていませんでしたということはよくあります。

(よくあってはダメなのですが)

酸素が出ていないと命に関わる重大事故につながるので、確認は大事です。

どれだけ忙しくても、次の業務が迫っていても確認の優先度は高い。

落ち着いて見ていきましょう。

 

確認ポイントとしては次の通り。

  •  酸素の残量
  •  チューブの開通
  •  チューブの接続(ボンベ側/利用者側)

ひとつずつ説明していきます。

 

確認ポイント1. 酸素の残量

酸素ボンベが空になるタイミングは思っているより早く、多量の酸素を吸っている人だと新品を使っても数時間で空になってしまいます。

酸素利用中の人のそばに行ったときは、残量目盛りも確認するようにすると安心です。

目盛りを見るのに5秒とかからないので、確認することで利用者の安全が守れるので効果の高い行動ではないでしょうか。

 

余裕があればあと何時間使用できるかも計算しておきたいですね。

ちなみに、目盛りが赤のエリアを指していれば交換時期です。

 

確認ポイント2. チューブの開通

酸素のチューブは柔らかいビニール製なので、物が乗ったりねじれたりするとすぐに詰まります。

移動をしたあとや車椅子の車輪で踏んづけてしまうことが多いので、気をつけよう。

据置き型の酸素発生装置から伸びた長いチューブを、まれにスタッフが踏んでしまうこともあります。

利用者さんの首を絞めていることと同じだから、気をつけたいですね。

(ちなみに私は踏んだ経験がある。自戒。)

 

確認ポイント3. チューブの接続
  • 酸素もちゃんと残っている
  • チューブも詰まったところはない

ときても安心できません。

なぜなら、チューブの根本がボンベから外れていることもあるし、酸素が出ている部分が鼻や口にきちんとはまっていないことがあるからです。

鼻カヌラの場合なんかは鼻の穴に片方しかはまっていないことが多々あります。

 

鼻の穴をまじまじと見るとズレてるとか、間違い探しのレベル高くないか。

 

ミスは細部で起こる

一周回ってそこ間違えるか?というミスは、どの業界のどんな業務にもあると思います。

ツメが甘くならないよう、確認は最後までやっておきたいところです。

 

 

体調が変化したときの対応を知っているか

酸素を吸っているということは、何らかの病気や不調を抱えているということです。

ということは、ちょっとした出来事やストレスで体調に変化が起きやすいということ。

 

酸素を吸っている人が不調を感じると、分かりやすく苦しそうな様子になります。

側にいるスタッフもつられて不安やパニックを起こすと相手にも不安を与えるので、体調変化が起きたときの対応は普段から知っておくと利用者もスタッフも安心できると思います。

 

体調変化が起きたときの対応法としてはこちら。

  1. 周りのスタッフに報告する
  2. 楽な体勢をとる
  3. 血中酸素濃度(SpO2)を測定する

一つずつ見ていきましょう。

 

1.周りのスタッフに報告する

息苦しさに限らずすべての体調不良、急変で大切なことです。

どんなに優秀な人でも一人でできることは限りがあるからです。あって手は2本、口は1つ、考える頭も1つ。

また不測の事態が起きたときは人はパニックになって正常な判断がとれなくなるものです。

できる作業を増やして適切な判断をとる余裕をもつためにも、周りのスタッフに応援を求めましょう。

あとに挙げるどの方法よりも大切なことです。

 

2.楽な体位をとる

酸素を吸うことになった原因の病気によっては、取ることで楽になる姿勢があります。

心不全という、心臓のはたらきが弱まる病気の場合は上半身を起こして座る「起座位(きざい)」の姿勢をとることで息苦しさが楽になることが多いです。

姿勢とは少し違いますが、COPDという病気の人が息苦しさを感じたときは「口すぼめ呼吸」を促すといいと言われています。

口すぼめというのは唇を「う」の形にして息を吐くことです。

ホースの入口をつまむと水圧が強くなるあの原理で、息が吐き出しにくい人の呼吸を助けてあげるんですね。

 

体制を整えたり呼吸方法を工夫しても改善がなさそうなら早々に次の手を打ちましょう。

 

3.血中酸素濃度(SpO2)を測定する

SpO2とは体中をめぐる血液の中に含まれる酸素の濃度を簡単に測定した数値です。

濃度なので単位は「%」です。

正常値は成人で96%以上ですが、個人差があって普段から呼吸系の病気を持っている人は94%くらいでもピンピンしているときがあります。

 

利用者から「息苦しい」といわれたらとき、呼吸状態の確認のためには必ず測定したい数値でもあります。

 

正確な酸素濃度は動脈を流れる血液を専用の機械にかけて測るのですが、動脈は体の深いところにあるので採血できるのは医師だけですし、そもそも針を刺すと痛いです。

 

その点、SpO2はパルスオキシメーターという機器を指先に挟むだけで測定できますし痛みもありません。

介護職でも誰でも行える測定方法なのもポイントです。

 

ただ、簡易的に測る数値なので測定した条件によっては数値に変化がでます。

SpO2の数値だけをみて正常/異常を判断するのは危険なので、息苦しいと言う人がいたときは必ず医療職に伝えてくださいね。

 

酸素を吸う人をみるポイントまとめ

ここまでお伝えしたことをまとめると

  1. 酸素の発生源(ボンベなど)から利用者まできちんと酸素が届いているか
  2. 体に酸素が不足している症状はでていないか
  3. 息が苦しくなったときの対応を知っているか

となります。

 

息苦しさは命の危機を自覚する症状のため、息苦しさを感じた人はパニックになります。

そのパニックに巻き込まれず安心できる対応ができるかどうかが、専門職やプロのチームとして腕の見せ所ではないでしょうか。

 

酸素を吸っているひとがいても自信をもってケアが提供できるよう、お互い頑張りましょう!